経営承継円滑化法による総合的支援
経営承継円滑化法による総合的支援(中小企業基盤整備機構(J-Net21 中小企業支援施策))の対象者、金額、対象経費、日程、注意点を、この制度の内容にそって整理しました。
経営承継円滑化法は、税の猶予・遺留分の合意・都道府県知事の認定を一本の法律でつなぐ、事業承継の土台
「経営承継円滑化法による総合的支援」は、中小機構のJ-Net21「中小企業支援施策」に載っている解説ページの題名です。補助金のように、申請して審査に通ると交付金が振り込まれる制度ではありません。正式な法律名は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」で、平成20年10月1日に施行され、民法の特例に関する規定だけは平成21年3月1日から施行されています。この法律が、現経営者から後継者へ会社を引き継ぐときにぶつかる壁に、国としての答えを用意しています。
J-Net21は、壁を三つに分けています。一つ目は、相続税・贈与税の負担です。自社株の評価額が大きいと、株を受け取った後継者に、現金で払えないほどの税が課されることがあります。二つ目は、自社株を承継するときの遺留分です。後継者以外の相続人が、最低限の取り分を請求できる仕組みが民法にあります。三つ目は、承継の場面で生じる資金不足です。この法律は、この三つに対応する支援策として、事業承継税制、遺留分に関する民法特例、金融面の支援を定めています。
このページは、三つのうち前の二つを、国税庁の公式資料と中小機構の解説をもとに詳しく読みます。三つ目の金融面の支援は、このサイトが扱わない種類の仕組みなので、取り上げません。窓口は後ろの表にまとめます。
最初に、全体像を表で押さえます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度の正体 | 補助金ではなく、税の納付を猶予・免除する仕組みと、相続人どうしの合意を法的に固定する仕組みの組み合わせ |
| 根拠 | 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)と、租税特別措置法 |
| 施行 | 平成20年10月1日(民法の特例の規定は平成21年3月1日) |
| 解説の出どころ | 中小機構 J-Net21(2025年12月内容改訂)、国税庁「法人版事業承継税制」(令和8年7月のあらまし) |
| 実施の窓口 | 都道府県の担当課(認定・確認)、税務署(申告・猶予・継続届出)、経済産業大臣(民法特例の確認) |
| 向く人 | 非上場の会社(中小企業者)の株を、後継者に贈与または相続で引き継ぐ予定の経営者と後継者 |
J-Net21の元データ上、この制度の「実施機関」は中小企業基盤整備機構、対象地域は全国です。募集期間という概念がなく、金額の上限や補助率もありません。代わりに、使える期限(適用期限)と、事前に出しておく書類の期限があります。ここが、このページでいちばん大切な点です。
何が「支援」になるのか。猶予と免除の仕組みを短く言うと
法人版事業承継税制は、国税庁の説明では、後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式等を贈与または相続等で取得した場合に、その株式に係る贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡等があったときに、猶予されている税の納付を免除する制度です。
ここで、言葉の意味をはっきりさせます。猶予は、払わなくてよくなったのではなく、払う時期を先に延ばしている状態です。要件を守り続けているあいだは猶予が続き、定められた事由が起きると免除されます。逆に、要件を満たさなくなると、猶予されていた税額に利子税を加えて納めることになります。
| 用語 | 意味(国税庁のあらましによる) |
|---|---|
| 納税猶予 | 贈与税・相続税の申告期限までに申告書を出し、猶予される税額と利子税に見合う担保を税務署に提供して、納付を先に延ばすこと |
| 免除 | 後継者の死亡など、定められた事由があったときに、猶予されていた税の納付が不要になること |
| 利子税 | 猶予が終わって納付するときに、猶予税額とあわせて納める税 |
| 円滑化法の認定 | 都道府県知事が、会社・後継者・先代経営者の要件を満たしていることを認定する手続。この認定が、税の猶予の前提になる |
| 特例承継計画 | 後継者や承継までの経営の見通しなどを書いた計画。特例措置を受けるには、事前に提出して確認を受ける |
つまり、入口は税務署ではなく、都道府県庁です。この順番を取り違えると、税理士に任せていたのに期限に間に合わなかった、という事態になります。
特例措置と一般措置は、何がどう違うのか
法人版事業承継税制には、「特例措置」と「一般措置」の二つがあります。国税庁のタックスアンサーは、同じ会社の株については、どちらか一方の適用になるとしています。特例措置は、平成30年度の税制改正で、10年間の措置として創設されました。
| 比較項目 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 事前の計画 | 特例承継計画の提出が必要(平成30年4月1日から令和9年9月30日まで) | 不要 |
| 適用期限 | 平成30年1月1日から令和9年12月31日までの贈与・相続等 | なし |
| 対象株数 | 全株式(議決権に制限のない株式等) | 総株式数の最大3分の2まで |
| 納税猶予割合 | 100パーセント | 相続等は80パーセント、贈与は100パーセント |
| 承継パターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 複数の株主から1人の後継者 |
| 雇用確保要件 | 弾力化されている | 承継後5年間、平均8割の雇用維持が必要 |
| 事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 | 譲渡対価などで再計算した猶予税額を納付し、従前の猶予税額との差額を免除 | なし(猶予税額を納付) |
| 相続時精算課税の適用 | 60歳以上の贈与者から18歳以上の者への贈与 | 60歳以上の贈与者から18歳以上の推定相続人(直系卑属)・孫への贈与 |
この表で、実務に効くのは三点です。一つ目は、対象株数と猶予割合です。特例措置は、全株式が対象で猶予割合も100パーセントなので、猶予の範囲が一般措置よりずっと広くなります。二つ目は、後継者の人数です。最大3人まで認められるので、兄弟で共同経営を引き継ぐ形も対象になります。三つ目は、雇用の要件です。一般措置では平均8割の雇用維持が必要ですが、特例措置では、満たせなかった場合でも、理由を書いた報告書を都道府県知事に出して確認を受ける方法があり、それだけで直ちに猶予が打ち切られるわけではありません。
一方で、特例措置には、時間の制約があります。適用期限は、令和9年12月31日までの贈与・相続等です。2026年10月時点で、残りは約1年と2か月余りです。
提出期限はいつか。J-Net21と国税庁で数字が違う点に注意
特例承継計画の提出期限について、確認できた資料の間で記載が食い違っています。
| 出典 | 記載されている特例承継計画の提出期限 | 適用を受けられる相続・贈与の期限 |
|---|---|---|
| 中小機構 J-Net21(2025年12月内容改訂) | 令和8年(2026年)3月31日 | 令和9年(2027年)12月31日 |
| 国税庁 タックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)および「あらまし」(令和8年7月) | 令和9年9月30日 | 平成30年1月1日から令和9年12月31日まで |
国税庁の資料のほうが、新しい日付を示しています。J-Net21のページは、2025年12月の改訂の時点の内容で、その後に提出期限が延びたとすれば、国税庁の記載と整合します。ただし、提出先の判断は、会社の主たる事務所がある都道府県の担当課が行います。実際に計画を出す前に、必ずその課に、現在の提出期限と様式を確認してください。国税庁の「あらまし」にも、会社が策定する特例承継計画の具体的内容や、円滑化法の認定の具体的な要件・手続は、都道府県の担当課に聞くよう書かれています。
また、あらましの注記には、贈与のあとでも、円滑化法の認定を申請する時までは、特例承継計画を提出できると書かれています。計画の提出が、贈与の前でなければならないわけではない点も、あわせて知っておくと役に立ちます。ただし、これは提出の可否の話で、その後の認定申請の期限(後述)が別にあります。
贈与で引き継ぐ場合、後継者は何を満たす必要があるのか
国税庁のあらましが示す「主な要件」を、贈与の場合について整理します。細かな例外は、あらましや都道府県の担当課の説明で確認してください。
| 区分 | 主な要件(特例措置) |
|---|---|
| 会社 | 上場会社、中小企業者に該当しない会社、風俗営業会社、資産管理会社(一定の要件を満たすものを除く)のいずれにも該当しないこと |
| 後継者(受贈者) | 贈与の時に会社の代表権を有していること。贈与の日に18歳以上であること。贈与の直前に会社の役員であること |
| 議決権(全体) | 贈与の時に、後継者と特別の関係がある者とで、総議決権数の50パーセント超を保有すること |
| 議決権(後継者1人の場合) | 後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で、最も多くの議決権数を保有すること |
| 議決権(後継者2人または3人の場合) | 総議決権数の10パーセント以上を保有し、かつ、特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有すること |
| 先代経営者等(贈与者) | 会社の代表権を有していたこと。贈与の直前に、贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の50パーセント超を保有し、後継者を除く中で最も多くの議決権を保有していたこと。贈与の時には代表権を有していないこと |
| 担保 | 猶予される贈与税額と利子税に見合う担保を、税務署に提供すること |
一般措置は、後継者について「贈与の日まで引き続き3年以上、会社の役員であること」が必要になるなど、特例措置と少し条件が違います。この点は、国税庁のあらましの欄外に書かれています。
資産管理会社については、あらましが、有価証券、自ら使用していない不動産、現金・預金などの特定の資産の保有割合が総資産の70パーセント以上の会社(資産保有型会社)や、これらの特定の資産からの運用収入が総収入金額の75パーセント以上の会社(資産運用型会社)と説明しています。実質的に事業をしている会社なら、通常は問題になりませんが、不動産賃貸を中心にしている会社などは、早めに確認が必要です。
取得する株数にも条件があります。あらましは、後継者が1人の場合、先代経営者等が贈与の直前に持っていた株数をa、発行済株式等の総数をb、後継者が贈与の直前に持っていた株数をcとして、aがb×2/3からcを引いた数以上ならその数以上、そうでなければaの全部の株数を取得する必要があるとしています。後継者が2人または3人のときは、贈与後の持ち株数dについて、dが発行済株式等の総数の10分の1以上で、かつ、贈与後に先代経営者等が持つ株数より多いことが求められます。ここでいう「発行済株式等」は、議決権に制限のないものに限られます。
贈与税の猶予額は、どう計算されるのか
あらましは、贈与の場合の計算を三つの段階で示しています。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ステップ1 | その年1月1日から12月31日までに贈与を受けた全財産の合計額に基づき、贈与税を計算する(この金額を①とする) |
| ステップ2 | 贈与を受けた財産が、この制度の適用を受ける非上場株式等だけだと仮定して、贈与税を計算する(この金額を②とする) |
| ステップ3 | ②が「納税が猶予される贈与税」となる。①から②を引いた③が、申告期限までに納める税額になる |
相続時精算課税を選んだ場合は、計算の仕方が変わります。あらましによると、この制度の適用を受ける非上場株式等の額の合計から、基礎控除額110万円(令和6年1月1日以後の贈与の場合)と特別控除額2,500万円を引いた残りに、20パーセントの税率をかけた金額が、贈与税額(②)になります。式にすると、「(株式等の額 − 110万円 − 2,500万円)× 20パーセント」です。特別控除については、前年以前にこの特別控除を適用した金額がある場合は、その金額を差し引いた残りの額が使えます。
ここで押さえるべきは、納税が猶予されるのは、制度の対象になる非上場株式等に対応する税額だけだという点です。預貯金や不動産など、ほかの財産を同じ年にもらうと、その分の税は、期限までに納める必要があります。
相続で引き継ぐ場合は、何が違うのか
相続の場合の要件は、贈与とは、時点の置き方が違います。
| 区分 | 主な要件(特例措置・相続) |
|---|---|
| 後継者 | 相続開始の日の翌日から5か月を経過する日において、会社の代表権を有していること |
| 議決権(全体) | 相続開始の時に、後継者と特別の関係がある者とで、総議決権数の50パーセント超を保有すること |
| 議決権(後継者の人数による区分) | 贈与と同様に、1人なら特別の関係者の中で最多、2人または3人なら総議決権数の10パーセント以上かつ最多 |
| 役員であること | 相続開始の直前に会社の役員であること。ただし、都道府県知事の確認を受けた特例承継計画に記載された後継者である場合や、被相続人が70歳未満で死亡した場合は除かれる |
| 先代経営者等(被相続人) | 会社の代表権を有していたこと。相続開始の直前に、被相続人と特別の関係がある者で総議決権数の50パーセント超を保有し、後継者を除く中で最多の議決権を保有していたこと |
| 申告期限 | 相続開始があったことを知った日(通常は死亡した日)の翌日から10か月以内 |
| 円滑化法の認定の申請 | 相続開始後8か月以内に行う必要がある |
| 特例承継計画 | 相続開始の直前の時点で、確認を受けている必要がある(欄外の説明)。ただし、本文の注記では、認定の申請時までは提出できるとも書かれており、この点は都道府県の担当課に確認する |
相続税の猶予額の計算は、課税価格の合計額に基づいて計算した相続税の総額のうち、後継者の課税価格に対応する税額が①、後継者が取得した財産がこの制度の対象となる非上場株式等だけだと仮定したときの、後継者の税額が②で、②が猶予される相続税額になります。①から②を引いた金額が、期限までに納める税額です。
一般措置では、猶予の対象が、非上場株式等の評価額の80パーセントに限られます。あらましによると、対象株式の評価額の20パーセントだけが、後継者に引き継がれたと仮定して計算した相続税の額を、②から控除する、という手順になり、対象となる株式数は、発行済株式等の総数の最大3分の2までです。
猶予が続くための条件と、毎年・3年ごとの提出物は何か
猶予を受けたあとが、実は一番長い道のりです。国税庁の資料が示す期間と手続を、表にします。
| 期間・場面 | やること | 提出先と期限 |
|---|---|---|
| 特例経営(贈与)承継期間(原則として最初の申告期限の翌日から5年) | 毎年、継続届出書を提出する | 所轄の税務署へ。第1種基準日の翌日から5か月を経過する日まで |
| 同じ期間 | 毎年、年次報告書を提出し、確認を受ける(円滑化法の認定を受けた会社) | 都道府県知事へ。第1種基準日の翌日から3か月を経過する日まで |
| 承継期間の経過後 | 3年ごとに継続届出書を提出する | 所轄の税務署へ。第2種基準日の翌日から3か月を経過する日まで |
| 承継期間の経過後 | 年次報告書は不要になる | 都道府県知事への提出は要らない |
| 継続届出書を出さなかった場合 | 猶予されていた贈与税・相続税の全額と利子税を納める | 税務署 |
国税庁のパンフレット「継続届出書の提出について」には、具体例が載っています。X1年に贈与で取得した株について特例措置を受ける場合の例で、特例経営贈与承継期間はX2年3月16日からX7年3月15日までです。この例では、第1種基準日は、毎年の3月15日で、継続届出書は同年の8月15日までに税務署へ、年次報告書は同年の6月15日までに都道府県知事へ出します。承継期間が終わったあとは、3年ごとの3月15日が第2種基準日になり、その翌日から3か月を経過する日(6月15日)までに継続届出書を出します。
申告期限が災害等で延長された場合は、延長後の申告期限が基準になるため、報告基準日も延長されます。国税庁は、このための説明を別紙として公表しています。
猶予が打ち切られるのは、どんなときか
猶予税額と利子税を納める必要が生じる場面は、あらましで次のように整理されています。表の記号は、国税庁の表の区分です。
| 起きたこと | 承継期間内 | 承継期間の経過後 |
|---|---|---|
| 対象株の一部を譲渡等した(免除対象贈与を除く) | 猶予税額の全額と利子税を納付(区分A) | 譲渡等した部分に対応する税額と利子税を納付。残りの猶予は継続(区分B) |
| 後継者が会社の代表権を有しなくなった | 全額と利子税を納付。やむを得ない理由がある場合は除く(区分A) | 猶予は継続(区分C) |
| 会社が資産管理会社に該当した(一定の会社を除く) | 全額と利子税を納付(区分A) | 全額と利子税を納付(区分A) |
| 雇用の平均が、贈与時・相続時の8割を下回った | 特例措置は猶予継続(区分C)。理由等を書いた報告書を知事に出して確認を受ける。一般措置は区分A | 猶予継続(区分C) |
あらましは、納付が必要になったときは、事由に該当した日から2か月を経過する日までに納める必要があるとしています。ここでいう「やむを得ない理由」は、精神障害者保健福祉手帳(障害等級が1級)の交付、身体障害者手帳(障害の程度が1級または2級)の交付、要介護5の認定、およびこれらに類すると認められる事由と説明されています。
雇用の判定は、特例(経営)承継期間の末日に行います。雇用の平均が下回った理由を書いた報告書には、認定経営革新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所等)の意見が記載されたものに限る、という条件があります。
免除されるのは、どんなときか
あらましによると、猶予されている税の納付が免除されるのは、主に次の場面です。
| 場面 | 内容 |
|---|---|
| 贈与者・後継者の死亡 | 先代経営者等(贈与者)が死亡した場合、または後継者(受贈者)が死亡した場合は、届出書・申請書を出して免除される |
| 次の後継者への贈与 | 後継者がさらに次の後継者へ、この制度の適用を受けるかたちで贈与する「免除対象贈与」を行った場合、一定部分の猶予税額が免除される |
| 承継期間経過後の破産等 | 承継期間の経過後に、会社に破産手続開始の決定などがあった場合 |
| 事業継続が困難な事由(特例措置のみ) | 承継期間の経過後に事業の継続が困難な一定の事由が生じ、会社を譲渡・解散した場合は、対価の額などをもとに税額を再計算し、従前の猶予税額との差額が免除される |
最後の再計算の仕組みは、特例措置のみで、一般措置にはありません。事業の継続が難しくなったとき、猶予された税額を丸ごと納める必要があるのか、それとも、実際の譲渡額などに応じて再計算されるのかは、制度を選ぶときの重要な違いになります。
災害等に関する措置も用意されています。国税庁の資料によると、災害により事業用資産が総資産の30パーセント以上滅失した場合などで、承継期間等内に会社が破産等した場合でも、納税猶予税額が免除されます。また、災害等が発生した日から1年以内に相続等で取得した場合は、相続税の猶予の適用要件の一部が不要とされています。
遺留分に関する民法特例は、税とは別に何を解決するのか
税の猶予で自社株の承継の負担を軽くできても、解決できないのが、後継者以外の相続人が持つ遺留分の問題です。J-Net21は、この点を次のように説明しています。
民法は、兄弟姉妹とその子を除く相続人に、最低限の相続の権利を認めています。これが遺留分です。現経営者に自社株以外の財産がほとんどなく、相続人が複数いる場合、後継者以外の遺留分権利者が受け取る財産が遺留分に満たないことがあります。その場合、後継者は、遺留分侵害額請求(遺留分に相当する金銭の請求)を受ける可能性があります。多額の金銭を支払うことになれば、その原資を確保するために、自社株の一部を手放したり、事業用資産を売却せざるを得なくなる恐れがあります。
経営承継円滑化法は、この問題に対して、「遺留分に関する民法特例」を用意しています。現経営者から後継者へ贈与された自社株について、二つの合意ができます。
| 合意の種類 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 除外合意 | 贈与された自社株式を、遺留分算定基礎財産から除外する | 後継者の株式が、遺留分の請求の計算に入らなくなる |
| 固定合意 | 遺留分算定基礎財産に算入する価額を、合意時の時価に固定する | 将来、会社の価値が上がっても、算入額は合意時の時価のまま |
この二つは、併用することもできます。ただし、条件があります。後継者を含む推定相続人全員の合意が必要で、そのうえで経済産業大臣の確認を受ける必要があります。J-Net21は、事業承継税制(特例措置)の適用に合わせて、この民法特例の利用も検討するよう勧めています。
| 比較項目 | 事業承継税制(税の猶予) | 遺留分に関する民法特例 |
|---|---|---|
| 解決する問題 | 後継者に課される相続税・贈与税の負担 | 後継者以外の相続人からの遺留分侵害額請求 |
| 必要な手続 | 都道府県知事の認定、税務署への申告・担保の提供 | 推定相続人全員の合意と、経済産業大臣の確認 |
| 鍵になる人 | 後継者、認定経営革新等支援機関、税務署 | 推定相続人全員 |
| 同時に使えるか | 使える。J-Net21は、併せて検討するとよいとしている | 同左 |
民法特例について、このページが確認できた資料は、J-Net21の解説と、そこに紹介されている中小企業庁の資料(事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例)です。中小企業庁のサイトは、こちらの環境からは取得できなかったため、合意書の書式や確認申請の手続の細部は、読めていません。実際に使う場合は、経済産業省・中小企業庁の公式案内か、都道府県の担当課で、最新の手続を確認してください。
金融面の支援は、このページでは取り上げない
J-Net21の解説には、三つ目の柱として、事業承継のための金融面の支援が載っています。ただ、これは、資金を借りる仕組みにあたるため、このサイトの対象外としており、条件や手続の紹介はしていません。必要な場合は、J-Net21の元ページ(https://j-net21.smrj.go.jp/publicsupport/2019031101.html)と、そこから案内されている公式の資料をご覧ください。なお、元ページによると、事業承継に伴う金融面の支援のうち、認定が必要なものは、都道府県知事の認定を受ける必要があり、申請書の提出先は各都道府県の担当課です。
申請から納税猶予までの流れを、時系列で整理するとどうなるか
贈与の場合と相続の場合で、動くタイミングが違います。国税庁のあらましに書かれた時点を並べます。
| 時点 | 贈与で承継する場合 | 相続で承継する場合 |
|---|---|---|
| 事前 | 特例承継計画を作り、認定経営革新等支援機関の所見をつけて、都道府県知事に提出し、確認を受ける | 同左。相続開始の直前に確認を受けている必要がある(欄外の説明) |
| 承継の実行 | 贈与(後継者の要件・贈与者の要件を満たす) | 被相続人の死亡(相続開始) |
| 円滑化法の認定の申請 | 贈与を受けた年の翌年の1月15日までに申請する | 相続開始後8か月以内に申請する |
| 申告・担保の提供 | 贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までに、贈与税の申告書と一定の書類を税務署に提出し、担保を提供する | 相続開始を知った日の翌日から10か月以内に、相続税の申告書を出し、担保を提供する |
| 承継期間(5年) | 毎年、継続届出書(税務署)と年次報告書(都道府県) | 同左 |
| 承継期間の経過後 | 3年ごとに継続届出書 | 同左 |
この表から分かるのは、都道府県への認定の申請期限が、税務署への申告期限より前にくることです。贈与の場合、認定の申請は翌年1月15日で、贈与税の申告は2月1日から3月15日です。申請書類をそろえるには時間がかかります。申告の直前に慌てて準備を始めると、認定の申請期限に間に合わなくなります。
つまずきやすい点は、どこにあるのか
実務で起きやすい失敗を、制度の仕組みから拾い出します。
| つまずきの場面 | なぜ起きるか | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 計画の提出期限の取り違え | J-Net21と国税庁で記載が違う。古い情報を見て、もう間に合わないと誤解する、あるいは逆に、余裕があると思って後回しにする | 都道府県の担当課で、最新の期限を直接確認する |
| 認定申請期限の見落とし | 贈与は翌年1月15日、相続は相続開始後8か月以内と、税の申告期限より早い | 贈与・相続のスケジュールを逆算して表にしておく |
| 資産管理会社への該当 | 不動産や有価証券の保有割合が高いと、要件を満たせないことがある | 総資産の構成(70パーセント・75パーセントの基準)を、事前に試算する |
| 継続届出書の出し忘れ | 5年間は毎年、その後は3年ごと。担当者の交代で忘れやすい | 基準日を社内のカレンダーに登録する。出さないと全額と利子税の納付になる |
| 後継者の代表権の喪失 | 承継期間内に代表権を失うと、原則として猶予が終わる | 後継者の退任の可能性が生じたら、先に専門家へ相談する |
| 雇用の平均の低下 | 承継期間の末日の雇用の平均が、8割を下回った場合、報告書が必要 | 下回りそうなら、理由を整理して、認定経営革新等支援機関の意見をもらう |
| 遺留分の不一致 | 税の猶予を使っても、他の相続人から請求を受ける可能性は残る | 推定相続人との話し合いを、早い段階で始め、民法特例も検討する |
この制度が向く会社、向かない会社
向き不向きを判断する目安を、表にします。あくまで資料に書かれた要件との照らし合わせで、最終的な判断は、税理士や都道府県の担当課に確認してください。
| 状況 | 向くか | 理由 |
|---|---|---|
| 非上場の中小企業で、自社株の評価額が大きく、後継者に現金がない | 向く | 税の納付を、後継者の死亡等まで猶予できる可能性がある |
| 後継者が複数いる(兄弟で共同経営など) | 向く | 特例措置は、複数の株主から最大3人の後継者まで認められる |
| 自社株以外の財産が少なく、相続人が複数いる | 向く(民法特例とあわせて) | 遺留分の請求への対応が、事前の合意で整理できる |
| 上場会社 | 向かない | 会社の要件で、上場会社は対象外 |
| 資産管理会社(保有資産の割合が高い会社) | 要確認 | 一定の要件を満たすものを除き、対象外 |
| 後継者がまだ決まっていない | 準備段階 | 特例承継計画に後継者を書く必要がある |
| 後継者が18歳未満 | 向かない | 贈与の日に18歳以上であることが要件 |
| 承継の時期が令和9年12月31日より後 | 特例措置は対象外 | 特例措置の適用期限を過ぎる。一般措置の可否を確認する |
事業承継を考えるとき、ほかの制度とはどう組み合わせるのか
事業承継は、税と法律だけでは完結しません。この法律は、後継者に株を渡すところまでを支えますが、そのあとの事業をどう育てるかは、別の支援策で補うことになります。
| 場面 | 検討する制度の種類 | 注意点 |
|---|---|---|
| 承継の前後に、新しい設備やITを入れたい | 国や自治体の補助金(公募のたびに要件・期間が違う) | 公募要領で、後継者の要件や経費の範囲を確認する |
| 事業の方向を変えたい | 経営革新計画など、計画の承認を受ける制度 | 計画の期間や目標が必要 |
| 承継後の雇用を維持したい | 雇用関係の助成金 | 事業承継税制の雇用要件と、別の制度の要件は別物 |
| 承継のタイミングで事業を見直したい | 事業承継・引継ぎに関する補助金 | 毎年、公募の有無と内容が変わるので、最新の公募情報を確認する |
補助金を併用するときの注意として、補助金の交付を受けた資産を、承継後に処分すると、補助金の返還の対象になる場合があります。一方、事業承継税制は、承継した株を譲渡すると猶予が打ち切られます。それぞれの制度の「いつまで守る必要があるか」を、承継の計画にあらかじめ織り込んでおくと、後から食い違いが生じません。
実際に動くとき、誰に何を聞けばよいのか
確認先を、資料にある範囲で整理します。
| 聞きたいこと | 確認先 | 備考 |
|---|---|---|
| 特例承継計画の書式・提出期限、円滑化法の認定・年次報告書 | 会社の主たる事務所がある都道府県の担当課 | 国税庁の資料は、一覧(PDF)を案内している |
| 贈与税・相続税の申告、猶予の担保、継続届出書 | 所轄の税務署 | 具体的な計算方法の個別相談は、事前予約制 |
| 遺留分に関する民法特例の確認 | 経済産業大臣の確認の手続(中小企業庁の案内) | 中小企業庁のサイトは、こちらでは取得できなかった |
| 制度全体の解説 | J-Net21「経営承継円滑化法による総合的支援」 | https://j-net21.smrj.go.jp/publicsupport/2019031101.html |
| 国税庁の最新の資料 | 国税庁「法人版事業承継税制」 | https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/houjin.htm |
国税庁は、申告のための具体的な計算方法などについて、税務署での面接による個別相談を希望する場合は、事前予約制になっており、あらかじめ税務署に電話で日時を予約するよう案内しています。
よくある質問
Q1. この制度は補助金ですか。申請すると、お金が支給されますか。
いいえ。経営承継円滑化法による支援は、税の納付を猶予・免除する仕組みと、相続人どうしの合意を法的に固定する仕組みです。お金が支給されるものではありません。
Q2. 特例承継計画の提出期限は、結局いつですか。
J-Net21の解説(2025年12月改訂)には令和8年3月31日と書かれています。一方、国税庁の令和8年4月1日現在のタックスアンサーと、令和8年7月のあらましには、令和9年9月30日と書かれています。提出する都道府県の担当課に、最新の期限を確認してください。
Q3. 贈与と相続では、どちらが有利ですか。
一概には言えません。贈与では、贈与者が先代経営者として代表権を持っていたこと、贈与の時には代表権を有していないことなどが要件になります。相続では、被相続人の死亡という時期を自分で選べない点があります。計算の仕組みも異なるため、税理士と、具体的な株価や家族の状況に照らして検討してください。
Q4. 一度猶予を受けたら、ずっと安心ですか。
いいえ。承継期間(原則5年)は、毎年、継続届出書と年次報告書の提出が必要で、その後も3年ごとに継続届出書の提出が必要です。代表権の喪失や、資産管理会社への該当などがあると、猶予が打ち切られ、税と利子税を納める必要が生じます。
Q5. 雇用の維持は絶対に必要ですか。
一般措置では、承継後5年間の平均で、8割の雇用維持が必要です。特例措置では、この要件が弾力化されていて、満たせなかった場合でも、理由を書いた報告書(認定経営革新等支援機関の意見が記載されたもの)を都道府県知事に提出して確認を受ければ、猶予が継続される扱いがあります。
Q6. 遺留分の民法特例は、誰でも使えますか。
後継者を含む推定相続人全員の合意と、経済産業大臣の確認が必要です。一人でも同意しない相続人がいると、使えません。
Q7. 令和9年12月31日を過ぎたら、制度はなくなりますか。
特例措置については、令和9年12月31日までの贈与・相続等が対象になります。一般措置には、適用期限がありません。また、すでに特例措置の適用を受けた人の猶予や免除の手続は、その期限後も継続します。
まとめ。この制度を使うかどうかを決める前に
経営承継円滑化法による支援は、補助金のように申請して受け取る制度ではなく、事業承継のコストとリスクを抑えるための法的な枠組みです。特例措置は、全株式を対象に、猶予割合100パーセントを実現できる強い仕組みですが、事前の計画の提出、都道府県知事の認定、継続届出書の提出といった手続を、数年から十数年にわたって続ける必要があります。さらに、適用期限は、令和9年12月31日です。
ProdX Crowd編集部は、事業承継そのものの税務判断は、税理士や都道府県の担当課が行う領域だと考えています。当サイトの役割は、制度の入口で、何が支援で、何を満たす必要があるのかを、整理することです。承継をきっかけに、設備投資やIT導入、新事業への取り組みを考えている場合は、そのときに使える補助金の公募時期や要件を、このサイトの制度検索で確認してください。
この制度を一言でいうと
「経営承継円滑化法による総合的支援」は、中小企業基盤整備機構(J-Net21 中小企業支援施策)が実施する補助金・助成金です。対象の地域は全国です。
事業承継を促進するための経営紹介円滑化法による支援について解説しています。 中小企業の現経営者が後継者に事業を承継する際には、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下、経営承継円滑化法)」による支援策を活用することができます。 経営承継円滑化法は、平成20年10月1日(民法の特例に関する規定は平成21年3月1日)から施行されています。現経営者が後継者に事業を承継する際には、(1)相続税・贈与税の税負担の問題、(2)自社株承継時の遺留分の問題、(3)事業承継時の資金不足の問題があり、この法律では(1)~(3)の問題に対応するため、主に次の3つの支援策が定められています。 金融支援(事業承継のための融資・保証制度)
受付の期間は、通年(随時)で受け付けています。
| 制度名 | 経営承継円滑化法による総合的支援 |
|---|---|
| 実施機関 | 中小企業基盤整備機構(J-Net21 中小企業支援施策) |
| 種類 | 補助金・助成金 |
| 対象地域 | 全国 |
| 受付期間 | 通年(随時)で受け付けています |
「経営承継円滑化法による総合的支援」の対象になる方
対象になるかどうかを、この制度で定められている条件ごとに整理します。
- 1地域全国
- 2規模従業員数の制約は示されていません
| 確認すること | この制度の内容 |
|---|---|
| 地域 | 全国 |
| 規模 | 従業員数の制約は示されていません |
| この制度の文章にある言葉 | ProdX Crowd編集部の見方 |
|---|---|
| 中小企業 | 中小企業者・小規模事業者の定義に当たることが条件です。業種ごとに、資本金や従業員数の上限が決まっています。自社が当たるかを、定義の表で確認します。 |
この制度の内容
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 金額 | 事業承継を促進するための経営紹介円滑化法による支援について解説しています。 / 中小企業の現経営者が後継者に事業を承継する際には、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下、経営承継円滑化法)」による支援策を活用することができます。 / 経営承継円滑化法は、平成20年10月1日(民法の特例に関する規定は平成21年3月1日)から施行されています。 |
| 補助率 | 現経営者が後継者に事業を承継する際には、(1)相続税・贈与税の税負担の問題、(2)自社株承継時の遺留分の問題、(3)事業承継時の資金不足の問題があり、この法律では(1)~(3)の問題に対応するため、主に次の3つの支援策が定められています。 |
| その他 | 金融支援(事業承継のための融資・保証制度) |
| この制度の文章にある言葉 | ProdX Crowd編集部の見方 |
|---|---|
| 中小企業 | 中小企業者・小規模事業者の定義に当たることが条件です。業種ごとに、資本金や従業員数の上限が決まっています。自社が当たるかを、定義の表で確認します。 |
「経営承継円滑化法による総合的支援」の手続きの流れと日程
この制度は通年で受け付けられています。予算がなくなり次第、受付を終了する場合があります。
- 申請計画書・見積書を提出
- 審査1〜3か月
- 交付決定ここから発注できる
- 発注・実施期間内に支払いまで
- 実績報告証拠書類を提出
- 検査・確定補助額が決まる
- 入金お金が入るのは最後
発注・契約は「交付決定」の後。お金が入るのは、最後の「入金」です。
「経営承継円滑化法による総合的支援」についてのよくある質問
Q&A経営承継円滑化法による総合的支援
Q. 経営承継円滑化法による総合的支援の受付期間はいつですか?
通年で受け付けています。予算の状況により終了することがあるため、早めに実施機関へ確認します。
この制度を検討するときの確認リスト
| 確認項目 | 状況 |
|---|---|
| 対象の地域(全国)に、事業所がある | □ はい □ いいえ |
| 交付決定(または承認)の前に、発注・契約をしない | □ はい □ いいえ |
| 後払いの資金繰り(つなぎ資金)の目処が立っている | □ はい □ いいえ |
情報の確認元:中小企業基盤整備機構(J-Net21 中小企業支援施策)の公開情報。最新の募集状況・申請書類は、実施機関等のページで入手できます。 情報取得日:2026/10/12。
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