支援事例伝統産業・製造業 / 複数工程の段階的な見直し
伝統的な製造業が複数の工程改善を結び、職人技術とデジタル技術を融合
長い歴史を持つ小規模な製造業者が、人手不足から熟練者への依存、工程ごとの作業負担、生産できる量の制約、需要の増加に応えられない状況に直面し、市場の変化と競争の激化、高付加価値の商品への需要にも対応する必要があるという課題を、微生物を育てる工程のICT化、分離とろ過の工程の省力化、仕込みの水と温度管理の自動化、乾燥の改善と新商品の開発、加熱後の原料の冷却の省力化、新商品の基盤となる衛生管理の改善、製造人材の確保という、7つの関連する計画で解こうとしたことを、1つの経営変革のストーリーとして整理した事例です。本件の核心は、一つの工程を改善しても企業全体の生産性が最適化されるとは限らず、前の工程の能力が増えると後の工程の制約が顕在化する、という点にあります。7つの計画は同一企業の関連する計画ですが、すべてが実施されたとは扱わず、各計画の投資・目的・数値を独立したサブプロジェクトとして管理し、効果を合算しません。

- 課題人手不足から熟練者への依存、工程ごとの作業負担、生産量の制約が生じ、需要の増加と高付加価値化に応えにくかった。
- 支援した打ち手複数の工程の改善に、新商品の開発と製造人材の確保を加えて、全体最適の視点で結び、職人の技術とデジタル技術を組み合わせる構想として整理した。
- 目指す状態温度管理の作業時間を年約140時間から約80時間にする目標が示されているが、計画の例であり、7計画の効果は合算しない。実施状況は計画ごとに確認が必要。
+OUR SUPPORT
この事例での、ProdX Crowdの支援
事業の構想と計画を、経営の判断としてたどれるように整理する支援を行いました。支援の範囲は構想・計画の整理までで、実施や成果を示すものではありません。
- 課題と真因の整理表面の問題と、その奥の原因を切り分けました。
- 強みの棚卸しと打ち手の検討すでにある経営資源を、どう使うかを複数の選択肢で比べました。
- 取り組みの具体化進める順序と、現場で何が変わるのかを、言葉と図で整理しました。
- 実行の条件の整理法令・安全・体制など、進める前に確かめることを洗い出しました。
01COMPANY
この企業と、全体の戦略
この企業は、長い歴史を持つ小規模な製造業者です。伝統的な技術と、高品質な商品づくりを強みとし、国内の取引先に加えて、海外にも販売しています。特徴は、伝統の技術、職人の経験、少人数の製造体制、高い品質への追求、地域性、海外市場への展開、製造設備の継続的な改善です。
全体の戦略は、伝統の技術に、デジタルの計測、自動制御、工程の省力化、原材料と地域性による商品の差別化を組み合わせることです。重要な考え方は、職人を設備で置き換えることが目的ではない、という点です。熟練者の技術が必要な工程と、機械やシステムに任せられる工程を分け、熟練者が品質の判断や高度な製造の工程に集中できる体制を目指します。
02PROBLEM
直面していた課題と、その本当の原因
課題の連鎖は次のとおりです。人手不足が熟練者への依存を生み、工程ごとの作業負担が重くなり、生産できる量が制約され、需要が増えても応えられません。同時に、市場の変化、競争の激化、高付加価値の商品への需要にも対応する必要があります。
真因は、少人数の熟練者の経験と手作業が、工程の随所で能力の上限を決めていることです。どこか一つの工程が上限を決めると、他の工程を改善しても全体の量は増えません。
- 1見えていた課題人手不足・熟練者への依存・工程ごとの負担・生産量の制約。
- 2一段奥の原因工程の随所に、人の経験と手作業が能力の上限として残る。
- 3真因全体の流れの中で、どの工程が制約かを見て投資する視点が必要。
03PROBLEM TREE
課題を掘り下げる
目に見える問題から、その原因、さらにその奥にある経営上の制約まで、順に掘り下げて整理しました。表面の症状に対処するだけでは、同じ問題が形を変えて戻ってくるためです。
- 1人手不足と熟練者への依存生産の上限。
- 2工程ごとの負担複数の工程。
- 3ボトルネックの移動前工程の向上で後工程が制約。
04ALT
なぜこの打ち手か|他の選択肢との比較
工程を一つずつ個別に改善する選択は、分かりやすく進められますが、全体の制約を見ないと、改善が次の制約で止まります。
全体の工程を分析してから投資の順番を決める選択は、効果を最大化できますが、分析に手間がかかります。職人に頼る体制を維持する選択は、品質の判断を守れますが、人手不足の課題は残ります。
05UPDATE
7つの計画を、5つの層で読む
この事例では、同じ企業の7つの関連計画を、ひとつの構造として整理します。7つの計画がすべて実施されたという意味ではなく、計画ごとに、確認できる予定と結果を区別します。
- 1第1層経営戦略。
- 2第2層製造プロセス改革(5つの工程)。
- 3第3層追加投資(衛生管理・人材)。
- 4第4層商品・市場戦略。
- 5第5層収益管理。
06MAP
工程マップ|改善が、どこに当たるか
全体の流れは、原料、加熱と冷却、微生物を育てる工程、仕込み、発酵、分離とろ過、商品化、販売です。改善の投資は、この流れの異なる位置に対応します。
ここでは具体的な工程名や設備名は示さず、流れの中での位置と役割に絞って整理します。
- 1加熱後の冷却専用の冷却機
- 2微生物を育てる工程ICT化/乾燥・衛生
- 3仕込み・発酵水の準備・温度管理
- 4分離・ろ過自動の分離設備
- 5商品化・販売地域の価値を結びつけた商品
07MOD1
サブプロジェクト1|微生物を育てる工程のICT化
この工程では、温度、水分量、糖分に関する指標の管理が重要です。従来は、職人の感覚と経験による管理が中心でした。
取り組みは、温度のデータの記録と可視化、重量の計測機能を備えた設備、糖分の分析などです。目的は、製造の条件を定量的に管理し、品質の再現性を高めることです。職人の技術のデジタル化は、伝統の技術を否定することではありません。経験にもとづく判断と測定値を組み合わせ、品質管理を高度化する方法です。機器を導入しただけで、すべての製造条件が自動で最適化されるとは推測しません。
08MOD2
サブプロジェクト2|分離とろ過の工程の省力化
発酵したものを分離する工程と、その後のろ過の工程が、生産のリードタイムに影響します。支援では、分離の工程の管理や、不要物の発生が課題として整理されています。
投資は、状態の記録機能を備えた自動の分離設備です。圧力などの状態を監視し、設備を更新して、工程の管理を改善します。狙う変化は、分離の品質と圧力の管理から、不要物の発生などの改善、ろ過や静置の負担の軽減、リードタイムの改善への流れです。不要物の発生は設備だけで決まるとは限らず、原料、製法、工程の条件も関係します。
09MOD3
サブプロジェクト3|仕込みの水と温度管理の自動化
仕込みの水の準備、搬送、計量、温度の調整、洗浄に工数が発生します。大量の水をタンクに入れ、機械で移動する工程があり、技能を持つ作業者への依存や、搬送に伴う安全面の課題もありました。
従来の流れは、計量、搬送、冷却、再搬送、供給、発酵の温度管理、洗浄です。投資は、温度調整用のタンク、発酵用タンクの冷却機能の改修、流量計、供給方法の変更などです。計量を標準化し、必要な量を供給して、手作業と搬送の負担を減らし、温度管理も自動の制御にします。省力化は、単独の設備の自動化ではなく、計量、搬送、温度管理、洗浄を一連の工程として見直す必要があります。
10MOD4
サブプロジェクト4|乾燥の改善と、新商品の開発
湿度の高い環境では、乾燥が安定しにくく、乾燥状態のばらつきが品質管理上の課題でした。取り組みは、除湿機と通風の保管設備による乾燥条件の改善です。
新商品の戦略としては、地域の原材料と製造の背景を結びつけた商品を開発する構想があります。新しいラベルのデザインなどで、価値を伝えます。高付加価値化は、顧客が価値を認識できる要素を明確にし、製品の設計とブランドの表現に反映することです。商品の特性は根拠にもとづいて記述します。
11MOD5
サブプロジェクト5|加熱後の原料の冷却
前の工程の製造能力を高めた結果、その前にある、加熱後の原料の冷却作業が制約になっていました。従来は、加熱した原料を広げて、人の手で温度を下げる方法が中心です。
課題は、冷却の時間、手作業、身体的な負担、人員の数、既存の冷却機の洗浄性、衛生管理です。投資は、専用の冷却機を導入し、冷却、搬送、洗浄などの機能を改善することです。複数の工程の時間の比較がありますが、作業者の実働時間、機械の稼働時間、待ち時間、冷却時間を区別する必要があり、設備の理論の能力を、そのまま製造量の増加に換算しません。
12MOD6
サブプロジェクト6|新商品の基盤となる衛生管理の改善
背景は、需要と消費の構造の変化を受けて、従来の商品だけに頼らない事業の柱をつくる必要があったことです。そこで、飲みやすさを重視した新しいタイプの商品を、新しい顧客層、都市部への販路、海外市場へ向けて構想しました。既存の強みは、長年の技術、職人の経験、既存の取引先との関係、海外への販売の実績です。低い度数や健康に関する表現は、効果として扱いません。
製造を制限していた工程は、工程で使う布類の洗浄と乾燥でした。従来は、布を使い、温水で洗濯し、暖房機器などで乾かし、再び使っていました。乾燥に時間がかかり、布の衛生管理が製造上の重要な課題で、新商品では製造の衛生をさらに重視する必要があると事業者は判断しています。顧客の需要があっても、安定して製造する条件が整わなければ、新商品は販売できません。真因は、中核の技術そのものではなく、周辺の乾燥と衛生の管理にありました。
投資は、蒸気式の乾燥機です。遠隔監視のカメラなどで乾燥作業の終了を確認する構想もあります。計画2の乾燥の改善(原料そのものの乾燥状態、通風、除湿)とは、対象物と目的が異なり、混同しません。
- 1今回(計画6)工程で使う布類の乾燥・衛生管理。
- 2計画4原料そのものの乾燥状態・通風・除湿。
13MOD7
サブプロジェクト7|国内外の展開を支える製造人材の確保
市場の変化への対応と、海外の展開を進めるには、新商品の製造体制を強化する必要がありました。しかし、小規模な事業者では、少人数に製造の業務が集中しています。戦略は、製造工程の改善、新商品の開発、製造人材の確保、海外の販路の開拓を、一体で進めることです。
施策は、求人サービスで、製造業務を担う正社員を募集することです。
最終的な採用人数と採用単価は不明です。採用の指標は、広告の表示、クリック、応募、書類選考、面接、内定、入社、定着の流れで見ます。製造能力を増やすために設備投資だけをしても足りず、設備を運用して商品を作る人材が必要です。
- 1採用KPI表示→クリック→応募→書類→面接→内定→入社→定着。
14BOTTLENECK
本事例の核心|ボトルネックの移動
前の工程の製造能力を増やすと、その前にある冷却が追いつかなくなります。冷却の工程が制約となり、冷却の設備を改善すると、全体の生産能力が変わります。このように、一つの工程の能力を改善すると、別の工程が新たなボトルネックになることがあります。
仕組みを説明するための仮の例を示します(本件の実績値ではありません)。工程Aが100個/時、工程Bが60個/時、工程Cが80個/時なら、全体の上限は60個/時です。工程Bを90個/時に改善すると、全体の上限は80個/時になり、新たな制約は工程Cです。
- 1STEP 1全工程を順番に整理。
- 2STEP 2各工程の能力を算定。
- 3STEP 3前工程・後工程との関係を分析。
- 4STEP 4全体能力を制限する工程を特定。
- 5STEP 5投資後にどの工程が制約になるか検討。
- 6STEP 6追加投資が必要か判断。
- 7STEP 7需要と供給可能量を比較。
- 8STEP 8投資後の利益増加を算定。
15CROSS
複数の計画を横断した経営分析
第一に、工程ごとの改善ではなく、全体最適が必要です。各工程の改善の効果は、全体の製造能力の改善の効果と同じではありません。第二に、ボトルネックは移動します。前の工程の能力が増えると、後の工程の制約が顕在化します。第三に、職人の技術とICTには役割分担があります。定型的な管理は計測と自動制御に、熟練者の高度な判断は人間の役割として残します。
第四に、品質と生産性の両立です。製造量を増やすだけでなく、品質のばらつきや再作業の削減も評価します。第五に、商品の差別化への接続です。生産能力の確保、安定した品質、原材料と地域の価値、ブランド、販路を組み合わせます。第六に、投資の順番です。改善する工程の優先順位は、制約の大きさ、需要、投資の費用、他の工程への影響、品質、人的な負担から考えます。
- 1全体最適工程の改善≠全体の改善。
- 2ボトルネックの移動前工程の向上で後工程が制約に。
- 3役割分担定型は計測・自動制御、高度な判断は人。
- 4品質と生産性ばらつき・再作業の削減も評価。
- 5差別化への接続能力・品質・地域の価値・ブランド・販路。
- 6投資の順番制約の大きさ・需要・費用・影響・品質・負担。
16STAKEHOLDERS
関係者ごとに見る|誰にとって何が変わるか
工程の見直しは、複数の立場に関わります。
- 1熟練の職人判断に集中できる一方、機器の扱いと測定値の読み方を学ぶ。
- 2若手・少人数の従業員作業負担が減り、技術を学ぶ時間が増える。
- 3国内外の取引先品質の安定と安定供給を期待する。
- 4設備の供給元仕様、保守、教育を担う。
17ACTION STEPS
実行に向けた段階(目標)
事業計画で整理された実行の順序を、段階として示します。時期や規模は、策定時点の想定です。
- 1工程の分解全工程の能力を整理します。
- 2制約の特定いちばん遅い工程を見ます。
- 3段階的な投資優先順位で進めます。
- 4再評価次の制約を確認します。
18DIAGNOSTIC QUESTIONS
自社に当てはめるときの問い
複数の工程を見直すときの問いです。
- 1工程を最初から最後まで分解したか全体の流れの把握。
- 2各工程の処理能力はいくらかロット・稼働率を含める。
- 3工程間に滞留が発生しているか待機時間。
- 4追加需要は存在するか需要と供給の比較。
- 5投資後に別の工程が制約にならないかボトルネックの移動。
- 6職人の判断と機械の役割をどう分けるか役割分担。
19POINT
読み方のポイント|「どの工程が今の制約か」を毎回問い直す
設備投資は、改善した工程の数字が目立ちますが、会社全体の生産量は、最も遅い工程が決めます。改善の後には、次の制約がどこに移ったかを確認する習慣が、投資の効果を守ります。
職人の技術をデジタルで置き換えるのではなく、定型的な部分を機械に任せて、人の判断を高度な部分に集中させる考え方は、他の製造業にも応用できます。
20LEARNINGS
他社が学べること
一つの工程を改善しても、会社全体の生産性が最適化されるとは限りません。工程の流れ全体を見て、制約の位置と、その移動を考えて投資の順番を決めます。
職人の暗黙知とデジタルの計測を組み合わせ、品質の再現性を高めることは、伝統産業にも応用できます。計画の効果は合算せず、実施状況は計画ごとに確認します。
21SUMMARY
この支援で整理した主なポイント
- 課題は、人手不足・熟練者への依存・工程ごとの負担・生産量の制約と、高付加価値化の必要。
- 打ち手は、複数の工程の改善に新商品と人材確保を加え、全体最適の視点で結び、職人技術とデジタル技術を役割分担させること。
- 工程の改善は全体の改善とは別。前工程の能力向上で後工程が新たな制約になる。7計画の効果は合算せず、すべて実施されたとも扱わない。
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※掲載事例は、過去の支援内容(事業の構想・計画の整理)をもとに、企業・個人が特定されないよう情報を匿名化・再構成しています。
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補助金・経営支援顧問

